NotoNote2001:染め心

 

 

 「 僻 地 話 」   

―――印象的な染め見学者―――  

私は自分自身の暮らしている所を、過疎僻地と言うことが多い。多少、自嘲気味の気分もあるが事実は事実だし、聞いた人もイメージが湧きやすい・・・と思う。で、数年前の5月の話。

「染め場を見学したいんですが・・・」という若い女の子から電話があって、「いいですよ。穴水の町まで用事があるので、駅で待ち合わせましょう」

というわけで、その女性を後部座席に乗せ、国道249号線を東に走り、ボラ待ち櫓を通ると「これ、湖ですか?」と、いつものように尋ねられる。「まぁ、ここは内海で穏やかなんです。僕は、ここを北の瀬戸内海って言ってるんですよ。この町は南向きで過ごしやすく、冬でも雪は15p程しか積もらないんです・・・」等々、久しぶりに若い女性を乗せて声まで浮かれて、この時だけは観光ガイドになりきる私。ルームミラーに映る彼女の口元に笑みも浮かぶ。とても良い雰囲気だ。

・・・が、国道249号線を右折して山道に入る。しばらくすると、曲がりくねった細い道はアップダウンを繰り返す。人家は無くなる、人影は全くない!もちろん行き交う車もない!鬱蒼とした森にさしかかる頃、車内は寡黙になる!楽しげだった彼女の顔色が、ルームミラー越しに変わっているのが分かる。目元は引きつってさえいるようだ。

ありありと「この人、私をどこへ連れて行く気?危ない人かも!」と、思っているだろうナ〜と思う私。あいにくと、君は私の好みのタイプではない。(・・・そんな話ではない)例え好みであっても、私は私の欲望をコントロールするくらいの理性は持ち合わせている。(・・・そんな話でもない!)等々と思いながら「すごい僻地でしょう。女の人乗せると、どこ連れて行くのか、心配になるみたいですよ・・・」と、リラックスさせようと言ってみるが、彼女の顔に笑みは戻らない!
ウケないよ〜。

彼女には約15分間、ある種の緊張感を味わってもらい、その後、我がアトリエで染めの話、草木染の方法を説明。一通り聞いて貰った。

帰り際「遅くなるから、穴水駅まで送りましょうか?」と・・・敢えて言ってみる・・・。「いぇ、あの、どこか近くに駅ありませんか?」遠慮しているのか、怖がっているのか?私には、その表情からは彼女の真意が読みとれない・・・くれぐれも言っておくが、私に下心はない!!!爽やかな5月の夕暮れ、日の落ちるのよりも早く私の心は既に暗〜く沈みきり、妻に頼んで彼女を最寄りの駅まで送ってもらうことにした。

きっと彼女の記憶の中、草木染めというキーワードで、すごく印象的な一日になっただろう。染めの話が・・・?

危ない輩の多いこの頃、これくらいの警戒心は必要だろうと思うけど。まァ、これがウチの一般的な観光ルート?です。「・・・やっぱり、まんで僻地やぞね・・・。」

ちなみに、アップダウンを繰り返す曲がりくねった細い道は、最近少しだけ広がった。

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