NotoNote2001:染め心

 

 
 

「何故草木染? その2」 


―――― 草木に失礼 ――――

先日『ハーブ染め』と称したテレビ番組を見て驚いた。絹布にハーブの抽出液を1回染め、媒染を1回5分間通して終了。手早くできあがり。・・・確かにそれでも染まるのだが。せめてもう1度染めれば色も良くなり長持ちもするのにと思う。

知人の話に「サフラン染めを大切にタンスに仕舞っておいたら、色が無くなってしまった。高かったのに…」というのもあった。オイオイ、それ染めたの私じゃないよぉ〜。サフランは花の雌しべだけを集めて染めるハーブ染めのひとつであるが、染め方次第では日光や摩擦の堅牢度が弱いので、こういうこともある。

草木染めは染めだけではなく保管にも注意が必要だ。(草木染だけでなく、染織品は長時間直射日光に当てないで!)知人の品は染め方自体に問題がありそうだが・・・。本来、植物は染めるためにあるのではない。

草木染にまつわる話ならば・・・インド藍で染めたものを徳島産の本藍染めとして売っている店や、ある草木染の実演所では「○○染」と言って、その植物では出ない色を他の染料を混ぜて染め体験させている。更には、草木の液体にサラリと1回潜らせて、あたかも全て草木染であり、その糸で織った布である、と言う作品(商品)というのもある。

なるほど、その方法をすれば儲かるのか、と。ココまで来れば、もはや呆れるより感心してしまうのだった。私は染色を本業としているので化学染料や助剤の使い方は慣れているのだが、それでは何故草木の染めをするのかが分からなくなってしまう。

自然には染めるに適した草木とそうでない草木がある。インド藍にはインド藍の魅力、ハーブにもそれぞれの草毎に魅力があるはず。

「この草は(面白い色が染まらないから)ダメだ」と言ってしまうこともある。染まらない草木がダメなのではない。葉っぱは染める為にあるのでは無い。それは草木に失礼というものだ。殆どの草木はアースカラーか黒っぽい色にしか染まらない。

・・・いえいえ、アースカラーに染まってくれるんだ。

堅牢性の弱い色やアースカラーにしか染まってくれない現実の中で「どうすれば魅力のある染めができるのか」染める人は、そこで、できることを工夫するしかない。それは別の天然染料を加えることではないし、ましてや化学染料のブルーや紫色を加えることではない。

草木染め、ハーブ染め。本屋の店頭で沢山の本が並んでいる。信頼できる本、流行モノ、インスタントもの。楽しむには十分だが、そのマニュアル通りにならないのが常。その逆に「○○には染まらない」と書いてある植物が工夫次第で染まることも多い。

染め方のデータはそれぞれの人と各々の方法論でしかないもの。土地が変わり、水が変わり、季節が変わる。人が草木の移りゆく自然の様子を見つめながら、採集時期を変えて植物液の抽出法を変え、染め方の工夫をする。それが私達のデータになり、この土地の植物の染め方になる。

花の盛りに枝を断ち切って染めることも無いだろう。

庭のピラカンサの木が下枝を広げている。物の本には秋にもっとも美しい色を染めるとある。・・・5月。1回目に沸騰した液を捨て2回目、3回目、4回目の液を混ぜて木綿に染める。透き通った鮮やかな赤色の液体は、木綿にアルミ媒染で桜色。銅媒染でレンガ色。鉄媒染で赤みのグレーを染め上げた。

草木の染め方は・・・私が知らない事が多いと言うだけのこと。自然に対して、分かったようなことは言えないなぁ〜。

そして、また違う草木を試し染めをする。
「奇麗に染まった?」と聞く妻に、
「あの葉っぱ、ダメだった。染まらんかった」と、ついつい言ってしまう私なのだった・・・。


 

Essay 染色の専門サイトは→こちら

Copyright(C)2000- NotoNote All rights reserved.