NotoNote2001:染め心

 

 

 

「何故草木染? その1」  


――― 化学染料と天然染料 ―――

私のアトリエには化学合成染料(絹用の酸性染料)が並べられ、倉庫の棚には植物の抽出染料が保存されている。

私が草木の染に関わったのは京都で10年間染色を学んだ後、能登で5、6年を過ごしたころ。住んでいる身の回りを見つめる気持ちが出てきた頃からだった。職業上、草木染めの知識や技法は知っていたが化学染料に慣れた身には、植物から抽出した液は「染料としては使いにくいもの、工程が煩わしく堅牢度も低いもの」というのが正直な感想だった。

草木染めの専門家が「草木で染めたものは化学染料で染めたものより色が良い」と言うのは、ひいきの引き倒しに聞こえていたし、「化学染料では出せない色が染まる」と言われると、染色仲間と共に私達は却って反感を持ったものだ。

「それは染料に不純物が混ざっているからだ!」と。

化学染料で顔料や胡粉を混ぜ補色添加して重ね染めをすれば、草木染めのような「ムックリ感」が自由に出せる。更に酸やアルカリにも、摩擦や光に対しても草木染めよりも耐久堅牢度のよい安定した染色ができる。そして草木染めでは難しいのだが、色の再現性も化学染料では楽なのである。

では何故、私は化学染料だけでなく草木染めも行うのだろう。

実は草木の染めによって染色全般を学んだのである。
いや、正確には今も学んでいる。草木の染めによって『染めの化学』と『絞り』と『染の歴史』を学ぶことになったと言っても良い。化学染料は簡単に使えるので、インクで絵を描く感覚を鍛える事に集中し、それ以外は何も考えなくて良かったのである。

化学染料の欠点はそのことと、石油化学工場で製造され公害を発すること(よく製造中止になる染料がある・・・)だろうか。しかし、植物の色素による染色も、より安定した染着と発色のためには媒染で金属塩を使わなければならない。クロム媒染剤や銅媒染剤は使い方や量、そして廃液に注意しなければならない。ミョウバンとて食品に使われているから安全そうに思えるが、実際は「硫酸アルミニュウムカリウム」と言う金属の結晶で大量に使うのは良くない。

だが、そんなことを考えていると、染色を初めとして、化学合成色素によって作られる絵の具は使わない方が良くなってしまう。絵画や音楽や生活文化全てが無害の上に立っているモノではないし、むしろ害を伴った無駄なエネルギーを費やした上で成り立っているものだから。

人間の生業(なりわい)は、全てが『自然の破壊』と『エネルギー消費』によって成立しているモノとも言える。害毒があるもの全てを否定するのではなく、害毒を必要以上に出さない姿勢と程度をわきまえるしかないのだと思う。害毒の無いアートなんて、アートなんかじゃない!・・・話が別のほうへ行きそうだ・・・。

結局、私は草木の染めで染色全般に目を向けることになり、染めが本当に好きになってきた。植物の染めと化学染料を比較することによって、それぞれの長所と短所を明確にすることで私自身のあり方も明確になってきた。

化学染料でも植物の色素でも、美しく楽しく魅力的な色と形に染めることができればよい。

住んでいる家の前に、染めるのに良い草木がある。だから染める。もっと美しく染めたいと思う。そして、あれこれ工夫する、それで良いのだと思う。

 

Essay 

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